Cloudflareは自社でどう使っているか|4,000個のアプリと全社展開の進め方
要点:Cloudflare OSは、公開前からCloudflare社内で使われてきた基盤です。同社CIOの記録によると、数千人の社員が毎週利用し、直近30日で4,000個を超えるアプリやツールが作られたと説明されています。注目すべきは数字そのものより、AIに毎回作業させるのではなく、AIに「再利用できる道具」を作らせたという設計の転換です。
社内でどれくらい使われているか
CloudflareのCIOであるSam Rhea氏は、社内でのCloudflare OSの利用状況について次のように説明しています。
- 数千人の社員が毎週利用:エンジニアリングから営業まで、職種を問わず使われています。
- 直近30日で4,000個超のアプリ・ツールが作られた:社員自身が作ったものです。
- 営業部門だけで1万時間超の手作業を削減(同社推定):テリトリー計画や提案書作成などが対象です。
ただし、4,000個の一覧やカテゴリ別の内訳は公開されていません。「4,000個」という数字は、個別事例の裏付けが取れるものではない点に注意してください。検討材料として使うなら、次のセクションで扱う「処理手順まで公開されている事例」を見るほうが実態に近づけます。
公開されている6つの事例
公式記事からは、社員がCloudflare OSで作った6つの事例が確認できます。ただし、6件すべてに詳細なケーススタディがあるわけではありません。処理手順まで公開されているのは主にITヘルプデスクの例で、他は用途と効果の紹介に留まります。どこまで公開されているかを分けて整理します。
| 事例 | 部門 | 公開されている範囲 |
|---|---|---|
| ITヘルプデスクの分析ダッシュボード | 部門: IT | 公開範囲: 処理手順まで公開。導入前はCSVを手動で書き出してスプレッドシートへ取り込んでいた作業を、AIが書いたダッシュボードのコードに置き換えています。 |
| チケットの分類・返信案の作成 | 部門: IT | 公開範囲: 動作の概要まで公開。返信案を作るところまでがAIの役割で、送信前に人が内容を確認する設計です。 |
| 営業テリトリーの計画 | 部門: 営業 | 公開範囲: 用途と効果のみ。参照データ・優先順位の計算方法・出力画面は非公開です。 |
| 顧客向け提案書の作成 | 部門: 営業 | 公開範囲: 用途と効果のみ。読み取る社内情報・自動生成の範囲・承認者は非公開です。 |
| 調達のボトルネック診断レポート | 部門: 調達 | 公開範囲: 用途のみ。従来は数日かけて表計算を調べていた停滞原因の診断に使われたと説明されています。 |
| ノートPC交換の進捗管理 | 部門: IT → 財務 | 公開範囲: 用途と共有経路のみ。IT部門の社員が作ったものを近くの席の財務担当へ共有した例です。 |
ITヘルプデスクの例が示していること
6件のうち、最も具体的に公開されているのがこの例です。導入前は、チケットシステムからCSVを書き出し、スプレッドシートへ取り込み、グラフを作り、夜間のチケットを1件ずつ開いていました。
Cloudflare OS v2では、まずAIがダッシュボードのコードを書き、以後はGatekeeper経由で同じ問い合わせを実行します。画面を開くだけならAI推論は走らず、トークン消費はゼロです。返信文を作る場面だけAIを呼び出します。
どうやって全社に広げたか
Cloudflareは、最初から全社員に「自由にAIアプリを作ってください」と呼びかけたわけではありません。非エンジニアにコーディング用AIを配ったところ、同社の表現では「解くべき問題を探しているアプリ」が大量に生まれたと説明されています。
そこで発想を逆転させ、次の5段階で進めました。この順序が、日本企業にとって最も参考になる部分です。
-
「やりたくない仕事」を送れるメールアドレスを作る
社員は面倒な作業をメールで送ります。表向きはAI宛のメールですが、裏側では小さなチームがAIを使いながら人の手で処理していました。
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数百件〜数千件を人が仕分ける
繰り返し現れる仕事を探しながら、必要な社内用語、実行手順、接続すべきデータ、求められる出力形式を洗い出します。
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繰り返す仕事をSkillにする
共通パターンが十分に集まるまでメール対応を続け、蓄積した文脈とSkillをワンクリックで実行できるようにしました。
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AIに再利用できるアプリを作らせる
社員が自然言語で仕事を説明すると、AIが処理を行うコードを書きます。作ったアプリは必要なとき・スケジュール・イベントをきっかけに実行できます。
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各部門のChampionが横展開する
専任の大規模AI部門は新設していません。ロンドンの営業リーダー、テキサスのソリューションエンジニア、日本の事業開発担当など、各地域・部門の先行利用者を推進役にしました。
Cloudflareが社内に広げたのは、4,000個の完成済みアプリではありません。面倒な仕事を集める窓口、共通化するSkill、安全に作って共有できる基盤、現場で伴走する推進役をセットで用意したことが要点です。
社内導入から得られた3つの原則
1. 会社の文脈は、モデルより重要
高性能なモデルを契約しても、社内用語・正しい手順・判断基準・データの置き場所を知らなければ、毎回ゼロから説明することになります。Cloudflare OSでは、チームが整備した知識や進め方をSkillとして共有し、一人が改善した手順を他の社員のAIも使えるようにしています。
AI導入の差は、どのモデルを契約したかより、自社の仕事をAIが実行できる形に整理できたかから生まれます。
2. AIは「道具」ではなく「道具を作る存在」
初期版では、業務スキルを実行するたびにAI推論が走っていました。しかし毎朝同じ表を集計する作業まで、毎回大量のトークンを使う必要はありません。新しい版では最初にAIが業務アプリやワークフローを作り、決まった処理はコードで動かし、判断が必要な部分だけAIを呼びます。
3. 決まった処理はソフトウェアへ戻す
「とりあえず全部AIにやらせる」より、繰り返しの処理をコードへ戻したほうが運用コストは下がります。前述のITヘルプデスクの例では、ダッシュボードを開くだけならAI推論が不要になりました。推論費用は従量課金なので、この差は運用が長引くほど効いてきます。
日本企業が参考にするなら
Cloudflare OSはオープンソースで、自社のCloudflareアカウントへ導入できます。ただし2026年8月時点ではEarly Accessで、公式にも粗い部分があると明記されています。入れれば完成する製品ではありません。
ソースコードそのものより先に真似すべきなのは、次の順序です。
- 繰り返し発生する仕事を集める窓口を作る
- 正しい手順と社内用語を知識として整理する
- AIへ渡す権限を最小単位に分ける
- 決まった処理をアプリやワークフローへ戻す
- 各部門の推進役が改善を横展開する
これまでの生成AI導入は、社員にチャット画面を配り、上手な質問の仕方を教えるところで止まりがちでした。Cloudflare OSが示したのはその次の段階です。会社の知識と権限を整え、AIが各社員専用のソフトウェアを作れるようにする。競争力になるのは最新モデルへのアクセスだけではなく、自社の仕事をAIが安全に実行できる道具へ変えられる設計です。
実際に手を動かす手順は配置手順ガイド、社内データの接続はGatekeeperガイドで扱っています。組織側の進め方は導入の6ステップを参照してください。
出典
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